この記事の監修者
国立成育医療研究センター
(現:山形大学医学部眼科学教室)
林 思音(はやししおん)
1. 子どもの目の成長について
新生児期の視力は、30cm程度離れた先がぼんやり見える程度と言われています。その後、目から視覚情報が脳へ送られることで視覚は発達しはじめます。そして、1歳で0.2、2歳で0.4と成長し、多くの子どもは6歳で1.0に到達します。視力の発達時期は、10歳前後で終わると言われていますから、この時期が将来にわたる視力を決定すると言っても過言ではありません。
2. 弱視について
この時期に何らかの目の疾患があると、視機能の成長が止まってしまい、正常に発達できなくなることがあります。視力が正常に発達できていない状態を「弱視」と言います。頻度は、50人に1人と言われています。その原因は、1)遠視や乱視などの屈折異常があってピントの合わない像しか見えていない場合(屈折異常弱視)、2)片方の目だけに遠視や乱視が強い場合(不同視弱視)、3)斜視(視線がそろわない状態)があって常に片方の目だけを使用している場合(斜視弱視)、そして 4)他の目の疾患があって、視覚刺激が正常に目に届かないために生じる場合(形態覚遮断弱視)があります。
3. 3歳児健診は弱視発見のゴールデンタイム
市区町村で実施されている3歳児健診では、眼科検査も行われます。3歳児健診で発見したい疾患が、前述の弱視です。
弱視を放置しますと、将来、コンタクトや眼鏡を使用しても視力が1.0見えない視力不良を残しかねません。反対に、この時期に発見し適切な治療を開始できますと、きちんと視力が発達することが期待できます。
ところが、子どもは目の異常を訴えません。もともとよく見えていたのに見えなくなったら「見えなくなった」と感じますが、子どもは急激に視力が成長している途中ですから、それなりに見えていて不自由を感じません。ですから、子どもに関わる大人が異常に気づいてあげたり、健診に参加することが重要です。
3歳児健診の時期は、視力の成長時期ですし、視力検査ができるようになる時期と言われていますので、弱視を発見できるゴールデンタイムといえます。
4. 3歳児健診の眼科検査では何をしますか?
お住まいの自治体にもよりますが、3歳児健診の時期になりますと、市区町村の保健センターなどから健診の案内とともに、視力検査のキットが送られてきます。また、発育をみる問診の中に目に関する質問がいくつか含まれています。
視力検査は、弱視があるかどうかを知るためにとても大切な検査法です。特に、片目ずつしっかり検査をしないと「片目の見えにくさ」は分かりません。キットの検査方法をよく読み、お子さんの検査を行ってください。日本弱視斜視学会ホームページでは、「3歳児健診のご案内」で、視力検査方法を詳しく説明していますので、参考にしてみてください。
目についての質問は、表1のようなものです。一つでも当てはまることがありましたら、一度眼科で精密検査をお受けになることをお勧めします。
最近は、健診会場で屈折検査を行う自治体が増えています。屈折検査では、遠視や乱視といった、弱視のリスクになる屈折異常があるかどうかを検査します。特にフォトスクリーナーという、弱視スクリーニング用に開発された屈折検査機器は、機器から音や光が出て、子どもも楽しくストレス無く検査ができます。こうした機器の使用で、以前よりも弱視など治療が必要な疾患を発見できる頻度が高くなりました。なお、屈折検査が導入されても、やはり視力検査や問診は変わらず大切な検査ですので、省略せずにしっかり行いましょう。
表1 目に関する質問
該当するものにチェックをつけましょう。
□ 目つきや目の動きがおかしい
□ 黒目が内側に寄る、外、上、ななめ上にずれる
□ ひどくまぶしがる
□ ものを見るとき頭を傾けたり、横目で見たりする
□ 物に近づいて見る
□ 明るい屋外で片目をつぶってものを見ることがある
□ 黒目の中心が白っぽく見える
□ 黒目の大きさが左右で違う
□ 目が揺れている
□ まぶたがさがっている
□ 親、兄弟姉妹に弱視、斜視、生まれつきの目の病気の人がいる
日本眼科医会「3歳児健診における視覚検査マニュアル」より
5. 精密検査受診のススメ
3歳児健診で異常かもしれないとわかった方には、「精密検査依頼票」が配られます。その後、お近くの眼科医療機関を受診してもらいますが、せっかく依頼票を受け取っても、眼科受診をためらうお母さんやお父さんがいらっしゃいます。「普段見えていない様子はないので大丈夫。」「眼鏡になるかもしれない。まだ小さいのに、眼鏡をかけさせるのはかわいそう。」「もう少し大きくなってから受診しても遅くはないのではないか。」と考えてしまうようです。ですが、前述のように弱視は「今」治療しておかないと、将来では間に合いません。また、就学時健診までは次の眼科検査がありませんので(園健診で行われることもありますが)、弱視治療のタイミングを逃してしまいかねません。ぜひ、お近くの眼科医療機関に行ってみてください。
なお、健診で異常と言われても、必ずしも弱視とは限りません。他の疾患である可能性、あるいは精密検査の結果「異常がなかった」という場合もあります。漫然と不安を抱えたままにせずに、速やかに眼科医療機関を受診してみてください。どこの医療機関に行けばいいか分からない場合は、保健センターに問い合わせてみても良いかもしれません。
国立成育医療研究センター
(現:山形大学医学部眼科学教室)
林 思音(はやししおん)
山形大学医学部眼科助教
国立成育医療研究センター 非常勤医師
HP:https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/doctor/kankaku-keitai/h02.html
略歴
2004年 | 山形大学医学部医学科卒業 |
---|---|
2006年 | 山形大学医学部眼科医員 |
2010年 | 浜松医科大学眼科 |
2015年 | 山形大学大学院医学系研究科博士課程修了 |
2016年 | 山形大学医学部眼科助教 |
2021年 | 国立成育医療研究センター医員 |
2024年 | 山形大学医学部眼科助教 国立成育医療研究センター 非常勤医師 現在に至る |
専門分野:小児眼科学 斜視弱視学